更新後記C

更年期からのうつ。
私は現在70歳を迎えました。古希といわれる年齢です。
そこで、かねてから感じていることを一つ書かせていただきます。
それは、うつのことです。
50代半ば、更年期の私を苦しめたものがうつでした。他にも冷えるとか乾くとか痒いとかいろいろありましたが、後から思うと、うつが一番つらいことでした。
闊達だった私の生活は、どんよりとくすんだ日々に変わって行き、なにもかもが面倒になり無精になりました。
元気な時の五分の一程度の仕事しかしていないのに、疲れきった日々でした。仕事に出れば、何十年もやっていることですから笑顔も出るし冗談も言えます。でも、診療が終わればボロ屑のようでした。
そんな時に試みたHRT(ホルモン補充療法)で用いたエストロゲンは、私を40代の体調に戻してくれました。
飛び上がるほどの嬉しさの中で、私は更年期専門外来を開業しようと決断しました。どうなることか不安に満ちた開業準備は、エストロゲンに背中を支えてもらわなかったら出来なかったと思います。
60代半ばに、また私はうつに襲われました。
今度は更年期障害と言うわけにはいきません。初老期、老年期、老人性のうつは、どう言い繕ったって加齢によるエネルギーの欠乏がなせる業ととしか言いようがありません。
でも、面白いものですね。今度の私は、じっくりと自分を観察し、憂うつではあるのですが、どこか活路を探すゲーム感覚で、さまざまな手段を用いて脱出することを試みていました。この体験を私の臨床に生かすことをしっかりと考えていたのです。
70歳になって、私は再び元気になりました。
若い頃のような活力には戻ってきませんが、最近なんだかハッピーで元気です。
私は、何か大きなものに試されているような気がしてなりません。
つまり、生来あまり丈夫な体質ではなかった私なのに、プレ更年期、更年期、ポスト更年期、老年期、各世代に生じる悪いほうの変化や苦痛を、望みもしないのに心身が敏感に感知して悩んでいます。
医者として脱却法を編み出そうとするのですが、それが上手くいとは限らず、絶望したり虚無的になったり、それに対してまた悩みもがきながら必死で生きています。
今となっては、そういうこと総てが、私を、人様の訴えが深く理解できる良い医者になるように、何か大きな采配によって試され育てられているように感じることがあるのです。苦しむ私としては有りがた迷惑なはなしですが、そう感じることがしばしばあるのです。
病気をした医者のほうが患者さまに優しくなれるというのは一理ありますね。そこで一つ、うつに振り回された私が、体験的に得たアドバイスを一つ。
「更年期からのうつは、励ましてあげよう!」
よく、うつの人を励ますことは逆効果だし、危険なことだと言われています。だから、うつだと聞くと、家族は当たらず触らずの態度を取ってしまいがちです。
でも、それは精神科で長期にお薬を頂くような精神疾患としての鬱病や躁うつ症だと考えます。
更年期がきっかけのうつは、励まされ、関心を持たれ、労わられることが必要です。配偶者や家族の無関心は、治るきっかけを失うことにもなりかねません。勿論、更年期からのうつが励ましだけで治るとは言いませんけど、本人は心理的に随分楽になるのです。
それから、そういううつになったら、怖がったり意地を張ったりしないでお薬にも救いを求めることをお勧めします。習慣性のない、軽くて効果のある薬剤が最近は多種類出ています。日本人の半数はうつといわれる時代です。長寿時代のやっかいな副産物かもしれませんね。恥ずかしいことではないのですから、早めに治して、後半の人生を大いに楽しもうではありませんか。
「更新後記Dアナウンスメント」も、おついでに開いてみて下さい。
(2006年1月)